VS-ヴァーサス-

 前作「突撃 お宝発掘部2 レイズ the 宝船」の後書きに「『これをこのまま本にすると、麻生も担当もPL法に引っかかるな』というくらい、つまらなかったので」「自主的に(ここ、重要です)改稿中です」と書かれて1年3ヶ月、多くのファンの期待と不安を一身に背負って登場した富士見ファンタジア文庫での新シリーズ。5年前から温めていた企画で、隔月間での出版が予告されている脅威のシリーズ。珍しく最初の予告どおりの日程で1巻が刊行されたものの、入荷しないか、しても冊数が少なかった書店が大半で、発刊後1週間で既に入手難に陥るという荒業を披露してくれた。イラストは硝音あや氏。

VS-ヴァーサス- file1 始動!超科学特殊捜査班
2003年7月25日初版 ISBN4-8291-1538-6-C0193 本体560円(税別) 281P

 近年、急激に増加してきた凶悪なテロ事件。その多くは<流出技術(アウトフロー)>と呼ばれる超科学技術を悪用したものであった。
 事態を重く見た政府は、<流出技術(アウトフロー)>犯罪に対処すべく、警察内に新たな部署を創設した。
 Superior Scientific Special Serch Squad――超科学特殊捜査班、通称<VS(ヴァーサス)>。
 これは<VS>のメンバーとして、理不尽な犯罪者たちに立ち向かう、少年と少女の物語である!

 自衛隊員だった兄をテロ事件で失ったばかりの高校生・鷹匠次郎に、兄の同僚だったという女性が接触してきた。彼女は次郎に兄の死の真相を告げるが、それはあまりに衝撃的な内容であった――
ヒーロー・アクション・ドラマの究極進化形がここにある!(表紙折返しより)


 とにもかくにも、1年以上のブランクを置いて始まったシリーズ。シリーズ初巻だけになんともコメントしにくいが、個人的には主人公鷹匠次郎が今までの主人公よりも「軽く」感じた。何が軽くて何が重いのかはよくわからないが。
 とりあえずは、本当に隔月刊で出るのかが目下の注目。

VS-ヴァーサス- file2 狩人の条件
2003年9月25日初版 ISBN4-8291-1552-1-C0193 本体620円(税別) 342P

 Superior Scientific Special Search Squad――超科学特殊捜査班、通称<VS>。これは<VS>のメンバーとして、理不尽な犯罪者たちに立ち向かう、少年と少女の物語である!

 謎のテロ組織の襲撃を受け瀕死の重症を負った高校生・鷹匠次郎は、<VS>の手による肉体改造手術を受け、一命をとりとめた。しかし、それは次郎に<VS>の一員となることを義務づけたのだ。
 次郎の初任務は、奇怪な連続バラバラ殺人事件の捜査であった。だが、次郎は<VS>の最高責任者であるコマンダーの非情な捜査方針に反発する……。
ヒーロー・アクション・ドラマの究極進化形、第二弾!(表紙折返しより)


 後書きに曰く、「『VS』第一巻は、発売後一週間を待たずして増刷という、予想外の好スタートを切」ったらしく、実際1ヵ月後には再版が出ていたおかげで、2巻が刊行される時にはすでに1巻が入手不可能という事態は避けられた中での2巻。驚くべきことにわずか2ヶ月での超スピード発刊となったが、恐ろしいことにもともとの構想では1巻と2巻と、さらにもう一エピソードで1巻だったらしい。いや、別に麻生俊平氏の今までを考えるというほど驚くことでもないが。それにしても、富士見もやりすぎだろう。いくらなんでも1週間で増刷が決まる程度しか刷ってなかったというのは見通しが甘すぎるというか…。実際、発売後1週間で半数の書店で消滅、2週間で大方の本屋から消えていた。
 ようやくページ数も300Pを超え、中身も徐々に重い展開に広がりつつある感じもある。構図としてザン剣にもどことなく通じるところもあるあたりを、どのように持っていくのかが、非常に楽しみである。ちなみに、私は竜胆寺那智女史にぞっこんである。1巻の時から。
 やはり、次も本当に隔月刊で出るのかが目下の注目。

VS-ヴァーサス- file3 グリーン・ドリーマーズ
2004年7月25日初版 ISBN4-8291-1567-X C0193 本体740円(税別) 449P

 Superior Scientific Special Search Squad――超科学特殊捜査班、通称<VS>。これは<VS>のメンバーとして、理不尽な犯罪者たちに立ち向かう、少年と少女の物語である!

 キャンプ中の女子高生グループが、原因不明の昏睡状態に陥るという事件が起こった。これは<流出技術(アウトフロー)>がらみの事件である可能性があるとみた<VS>本部は捜査を開始した。
 被害者たちの友人の少女をマークしていた蒼と次郎は、明らかに<流出技術>で改造されたと思われる飛行人間に襲われる!昏睡事件と彼らの行動には、どのようなつながりがあるのか?
ヒーロー・アクション・ドラマの究極進化形、待望の第三弾!(表紙折返しより)


 大方の予想を裏切らず、隔月刊ではなく前作より10ヶ月置いて発刊された第3巻。700円を越す価格を見て、すわ、500P越えか!?と期待したファンも少なからずいたと思われるが、蓋を明けてみるとミュートス最終巻、天に響け戦神の歌(680円)と大差ないページ数で、時代の流れと物価上昇を感じさせられる結果となった。ただ、3巻目にして450Pを記録したことにより、今後の展開が非常に楽しみになった。
 相変わらず重いのだが、今回は今まで以上に社会批判的な要素が色濃く出ていたように感じる。他の富士見作品を余り知らないので比較で語ることは難しいものの、政治的に微妙なラインの表現が出てくるというのもかなり異色ではなかろうか。私は好きだが、結構好みが割れそうな気はする。それでこそ、異色作家ではあるが。ザン剣・ミュートスの主人公に比べると、次郎がちょいとガキっぽく見えるのが気になるところではあるが、2011年の高校生はあんなものなのかもしれない。我らがリュウザキ竜胆寺女史が「国家公認暴力装置――警察」に協力(?)することになった経緯の端っこの方がちょろ〜っと垣間見れたりと、今後への展開が非常に気になる1冊となった。
 八賢人なんていう言葉も出てきて、ということはつまり残り5人いるということで、それぞれに1巻ずつとすると最低あと5冊、プラス完結偏で1本と考えると、6冊は出るのか?という計算ができなくはないわけで、一体完結するまでどれくらいかかるんだろうか…ということに思いを馳せるととても楽しい。最終巻では是非とも1000円/700Pを実現して欲しい。

VS-ヴァーサス- file4 そびえ立つ海
2004年12月25日初版 ISBN4-8291-1672-2 C0193 本体580円(税別) 314P

 Superior Scientific Special Search Squad――超科学特殊捜査班、通称<VS>。これは<VS>のメンバーとして、理不尽な犯罪者たちに立ち向かう、少年と少女の物語である!

 鷹匠一家を襲ったテロ事件の後遺症で、不登校になってしまった妹を見舞うため、次郎は北海道に戻ってきた。
 しかし、そこでアウトフロー犯罪に遭遇してしまう。なんと、デパートがまるごと液状の未知の物体に覆われてしまい、内部との連絡が一切取れなくなっていたのだ。中には二千人以上の人たちが捕らわれている!早速、<VS>本部は次郎にデパート内部への突入を命じた!
ヒーロー・アクション・ドラマの究極進化形、第四弾!(表紙折返しより)


 絶対に発売延期するだろうという大方の予想を鮮やかに裏切り、告知どおりに発売された第四巻。予価から推察するに300P前後、実際に出てきた作品も314Pという、非常に薄い本が、わずか5ヶ月で発売されたというその事実を物語っているようにも思えなくも無い。というか、いい加減300P前半で薄いと思ってしまうこの感覚を是正したいところだが、麻生俊平サポーターとしては恐らく無理だろう。
 ページ数的にも薄いが、内容的にもちょっと詰めが甘かったのではないか、と個人的には感じた。全体的に展開が雑…というといいすぎだろうが、ちょっと緻密さがなかったような気がする。あと、お願いだから「眼鏡をかけた小柄な女性」の挿絵に、眼鏡なしの挿絵をぶつけないで頂きたい。もっとも、このシリーズの挿絵に関しては、もはやそれ以前の問題ではあるが。そんな中、おキヌさんとコマンダーの掛け合い漫才(!?)や、コマンダーの相変わらずのぶっ飛び具合は、嬉しい限りではあったが。特に、竜胆寺那智女史サポーターとしては、非常に嬉しい。
 別に、厚さを競うのが能ではないだろうが、この作品が、ついに500Pを達成してしまった今、一刻も早く「怒涛の700P/1000円」を実現して欲しいと思う一方、やはり多少待たされても、それが例え1年でも2年でも、しっかりした話を書いて欲しいと思うのは、きっと私だけではないだろう。いや、別に四巻がちゃんとしてない、というわけでは、ないのだが…。

VS-ヴァーサス- file5 <V>と<S>
2005年7月25日初版 ISBN4-8291-1736-2 C0193 本体620円(税別) 330P

 Superior Scientific Special Search Squad――超科学特殊捜査班、通称<VS>。
 これは<VS>のメンバーとして、理不尽な犯罪者たちに立ち向かう、少年と少女の物語である!

 旭川で起こった流出技術犯罪の最中に、ヴァーサスは<高エネルギー人間事件>の手掛かりとなる指紋を採取することができた。しかし、突如<S1>こと水城蒼がそれを奪って失踪してしまう!
 その理由も目的も思い当たらず困惑する次郎に<S1>誕生の秘密と<V1>の真の使命が明らかにされる!

 ――俺に<S1>を殺せというのか!?
ヒーロー・アクション・ドラマの究極進化形、第五弾!(表紙折返しより)


魂の叫び

 四巻の紹介を書いたときには、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった、「最終巻」。”打ち切り”を祝うかのように、表紙の次郎の指の数は、6本。もう、何もいえない。いや、一ついえるとすれば、硝音あや氏は、今後二度と商業誌で仕事をするべきではない、ということくらいか。分をわきまえろ、と言いたい。
 一言で言うならば、「第一章 完」といった感じだろうか。確かに、一つの区切りではあるが、今後を続けようと思えば続けられなくもない、そんな終わり方をしている。後書きによると、さしもの麻生氏もやけっぱちになったらしく、最初の案は「暗黒面炸裂!」だったらしい。個人的には、それで華々しく散るのもありかな、とは思ったが、さすがにそんなことをしてしまうと色々と問題もあるだろうし、それを抑えて、なんとかこの幕引きまで持ってきた麻生氏の執念と情熱には頭の下がる思いがする。
 打ち切りの理由として、「有権者の審判が下った」と書かれているが、これは麻生氏だけの責任とはいえないだろう。内容的には「萌え」とは遠い場所にある作品に、中途半端な萌え系(?)の絵師を持ってきて、しかもその絵師のレベルは同人以下レベル。一巻は刷数が少なすぎて2週間もすれば書店から消える始末。最後まで絵と内容が合致することもなく、打ち切り。これで売れると思っていたのなら、富士見は馬鹿である。昔からの麻生ファンなら挿絵なんてなくても、となるだろうが、新規読者にとっては、ライトノベルにおける挿絵の重要性というのは、決して低くないであろう。そういった中、1巻のあの挿絵では、売れるはずもなかっただろう。そして1巻が売れない以上、2巻以降が売れるはずもない。麻生氏の「スロースターター」という特性もあいまって、結局打ち切りという憂き目を見てしまった。要するに、富士見に「売る気がなかった」ということであろう。もっとも、それだけの悪条件を吹き飛ばすことができるくらいの、挿絵なんてどうでもいいと思わせるだけの作品を書けなかった麻生氏が、一番悪いといえば悪いのだが。
 5巻が結構盛り上がって、各キャラも生き生きと活躍して、しかも続きそうな終わり方をしただけに、本当にこの打ち切りは悔やまれる。しかし、麻生氏は後書きで「負けません」と書いてある。この結果を「敗北」と認めた上で。私はその「負けません」という言葉を、信じたい。
 色んな面で、自己主張が目立ちすぎた気もする。主人公が段々馬鹿になってきてる気もする。変に狙ったキャラも、いた気がする。テーマも、多少マンネリが感じられる気もする。でも、続きが読みたかった。そんな作品だった、と、思う。

麻生俊平の軌跡に戻る